家族信託による認知症対策や2次相続対策を行うケースが増えてきました。
家族信託の場合、財産を管理する人に名義変更をしてしまいます。
財産を預けた人が亡くなった場合に通常とは違う相続手続きになりますので
その点解説してみたいと思います。
信託財産の相続手続きの原則
家族信託をすると
- 財産を預ける人(委託者)
- 財産を管理する人(受託者)
- 利益を受け取る人(受益者)
の3つの立場の人が財産にかかわることになります。
財産を預ける人が認知症対策を行ったり、2次相続対策を行うわけですが、
この人が亡くなった場合には、
原則、財産を預ける人の立場の相続が起こります。
信託契約に委託者死亡のケースについて何も定めがない場合には、
- 委託者の立場が法定相続される
- 委託者の立場を相続する人を遺産分割協議で決める
ということになります。
例外として
- 遺言信託の場合
- 信託契約に別段の定めがある場合
は、委託者の立場が相続されません。
この場合は、遺言や契約にしたがって手続きが進められることになります。
つまり、信託契約でいろいろ定めていても不動産について相続手続きが必要になるということです。
実際の信託契約はどうなっているか?
委託者の立場の相続が起きると、利益を受け取る人と衝突するリスクがあるので
通常の信託契約では、
委託者の地位は、相続により承継せず、受益者の地位とともに移転する。
といった定めを契約に盛り込むことが多くなってきています。
家族信託の契約では、家族に代わりに財産管理をしてもらうことが目的となるので、
財産を預ける人 = 利益を受け取る人
というような構図になるケースがほとんどです。
相続が起こった時にトラブルとならないよう、契約にこの関係を崩さないような定めをします。
信託不動産の相続手続きの方法
一般的な家族信託した不動産の相続手続きは
- 委託者の変更
- 受益者の変更
という2つの登記手続きをすることになります。
通常の相続手続きのような不動産の名義変更をするわけではないのが特徴です。
委託者の変更、受益者の変更はともに財産を管理する人が単独で申請をすることになります。
- 委託者が死亡したことを証する戸籍
- 信託契約書
の書類をつけて法務局に申請します。
信託契約の内容によっては、他の書類が必要になってきます。
信託不動産の受取を拒否できる?
信託契約では、財産を預けた人が亡くなった後、財産を引き継ぐ人を指定することが一般的ですが、
指定された人は拒否することもできます。
これは信託法にも定められています。
信託法第99条
受益者は、受託者に対し、受益権を放棄する旨の意思表示をすることができる。ただし、受益者が信託行為の当事者である場合は、この限りでない。
利益を受け取る人が相続時に拒否した場合は、
家族信託された不動産は通常の相続不動産と同じ扱いになります。
信託法第182条第2項
2 信託行為に残余財産受益者若しくは帰属権利者(以下この項において「残余財産受益者等」と総称する。)の指定に関する定めがない場合又は信託行為の定めにより残余財産受益者等として指定を受けた者のすべてがその権利を放棄した場合には、信託行為に委託者又はその相続人その他の一般承継人を帰属権利者として指定する旨の定めがあったものとみなす。
不動産の帰属は、法定相続または遺産分割協議により引き継ぐ人を決定していくことになります。
せっかく費用をかけて信託を設定したのに、受け取る人に拒否されると意味がなくなってしまいます。
家族信託を設定するときは、必ず財産を受け取る人にも説明しておきましょう。
信託不動産の相続税の取り扱い
家族信託された不動産の相続が起こった場合には、
基本的に相続税の対象となります。
考え方としては、通常の不動産を相続した場合と同様です。
ただし、信託不動産の相続が起こった場合には、
- 信託に関する受益者別調書
- 信託に関する受益者別調書合計表
を財産を管理している人から税務署に提出することが必要です。
期限が亡くなった翌月の末日までとなっているので、相続手続きには通常よりスピード感が求められます。
まとめ
家族信託した不動産については、特殊な相続手続きが必要なります。
原則は、委託者と受益者の変更登記をしますが、
信託契約の内容によっては全く違う手続きになります。
家族信託された不動産に相続手続きが起こった場合は、信託契約書や登記の信託目録の内容を
よく確認して手続きをしていきましょう。