公正証書遺言(公証役場でつくる遺言書)を残すことは、
- 相続トラブルを防ぐ
- 相続手続きが簡単になり家族へ負担をかけない
- 公証役場で保管してもらえる
といったメリットがあります。
「遺言書を作るのはなんだか難しそうだ」
「作り方を知りたいが、どこで調べたらいいか分からない」
というあなたのために公正証書遺言の作り方を解説いたします。
この記事を読めばあなたも公正証書遺言を作れるようになります。
公正証書遺言作成の流れ
公正証書遺言の作成は以下のように行います。
1.財産の調査
2.公正証書遺言の内容を決める
3.必要書類の収集
4.証人2人を準備する
5.公証人と事前打ち合わせ
6.文案の確認・修正
7.公証役場で遺言書を作成
8.公正証書遺言の受取
あなたが公正証書を作ろうと思ったら
- 財産の調査
- 財産を誰に渡すか考える
- 証人となる人2人を探す
- 公証役場で手続きをする
ということをすればOKです。
細かい遺言書の文言などは、公証人または専門家がチェックして文章にしてくれます。
そのため公正証書遺言の作成には以下のような大きなメリットがあります。
公正証書作成のメリット
- 遺言書の書き方で悩むことがない
- 形式不備で無効になる心配がない
- プロが作成するので内容の解釈でもめることがない
1.財産の調査
公正証書遺言に残す主な内容は、
- 誰に
- どんな財産を
を相続させるかということです。
そのため、まずはあなたの財産が現在どれだけあるか確認しましょう。
遺言書で渡すことのできる財産
- 不動産
- 現金・預貯金
- 株式・有価証券
- 自動車
- 貴金属・美術品
- 特許権・著作権
- その他財産的価値のあるもの
どの財産が相続財産に含まれるのかについては以下の記事で詳しく解説していますのでぜひ読んでください。
-
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相続財産の調査方法
あなたが持っている財産が何かだけでなく、その価値を調べましょう。
以下の書類を集めることで財産のおおよその価値が分かります。
相続財産に関する資料
不動産 → 固定資産税納税通知書
預貯金 → 通帳
株式・有価証券 → 取引残高証明書
自動車 → 車検証
貴金属・美術品 → 鑑定書
生命保険 → 保険証書
きちんとした資料で把握しておくと、公正証書遺言作成だけでなく相続税の対策や相続トラブル防止に役立ちます。
集められる資料はなるべく集めます。
2.公正証書遺言の内容を決める
あなたが公正証書遺言の内容で検討する点は以下の3つです。
ポイント
- 財産を誰に渡すか
- 遺言執行者を誰にするか
- 家族へどんなメッセージを残すか
遺言書は法律で8つのできることが定められています。
遺言書でできること
- 相続人の廃除
- 相続分の指定
- 遺産分割方法の指定と分割の禁止
- 相続財産の処分
- 内縁の妻と子の認知
- 後見人の指定
- 相続人相互の担保責任の指定
- 遺言執行者の指定または指定の委託
色々考えると難しくなります。
相続対策の遺言書では、赤字のものを検討すれば十分です。
シンプルに「誰に」「どの財産を渡すか」といったことを決めましょう。
遺言執行者を検討する
公正証書遺言を作成するのであれば遺言執行者の指定はなるべく選んでおきましょう。
あなたの代わりに相続手続きをする人を遺言執行者といいます。
遺言執行者は以下のような事由がなければだれでもなることができます。
- 未成年
- 破産者
一般的には家族か弁護士や司法書士といった専門家が遺言執行者になります。
遺言書を書いただけでは、あなたの死後に実際に遺言書どおりの手続きをしてくれるとは限りません。
遺言書を書くのであれば、遺言執行者を決めておきましょう。
家族への付言を検討する
遺言書には、「付言(ふげん)」という項目で好きなメッセージを残すことができます。
- 家族への感謝の気持ち
- 自分の死後家族へ伝えたいこと
- どんな思いで遺言書を書いたのか
- 相続財産の分け方の理由
などを書く方が多いです。
付言には法律的な効果はありませんが、あなたの思いを家族へ伝えることで家族の悲しみを和らげ、相続トラブルの防止にもつながります。
付言を読んで涙を流す方もいます。
法律的な相続対策として遺言書を書くことは大事なのですが、家族への思いを伝えることも遺言書の大事な役割だと私は考えています。
公正証書遺言を作るときもぜひ家族への最後のメッセージとして付言を書いてください。
3.必要書類の収集
公正証書遺言に書く内容がおおよそ決まったら、公証役場で遺言書を作成するために必要な書類を収集しましょう。
書類 | 取得場所 |
印鑑証明書(発行から3か月以内) | 住所地の市町村役場 |
戸籍謄本(発行から3か月以内) | 本籍地の市町村役場 |
<財産を残す相手が法定相続人のとき> 財産を相続する人の関係が分かる戸籍謄本(発行から3か月以内) |
本籍地の市町村役場 |
<財産を渡す相手が法定相続人ではないとき> 財産を受ける人の住民票(発行から3か月以内) |
財産を受ける人の住所地 |
このとき他人の戸籍謄本や住民票をとることがありますが、遺言書作成のため公証役場へ提出する旨を説明すれば戸籍・住民票ともに取得することができます。
また公証役場への相談資料として
- 不動産の登記事項証明書
- 固定資産納税通知書
- 預貯金通帳のコピー
- その他財産の内容の資料のコピー
を準備しましょう。
4.証人2人を準備する
公正証書遺言は、公証役場で公証人に作成してもらうのですが、さらに証人2人にも立ち会ってもらわねばなりません。
証人は以下に該当する人以外から選ぶ必要があります。
証人になれない人
- 相続人、その配偶者、直系血族
- 未成年者
- 財産を渡そうとしている人、その配偶者や直系血族
- 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記、使用人
基本的に遺言書に内容に大きな利害関係ある人や法的な判断ができない人は証人となることができません。
そうなると、証人をお願いできるのは親しい友人・知人が考えられます。
頼める人がいない場合は、公証役場へ証人の手配を頼んだり弁護士や司法書士などの専門家に費用を払って頼むことも可能です。
証人手配の費用として一人当たり10,000円程度がかかります。
5.公証人と事前打ち合わせ
準備ができたら、公証役場に電話をして公証人との事前打ち合わせの予約をします。
全国どこの公証役場でも公正証書を作成することができます。
何度か公証役場に行くことになるので、特に理由がなければ最寄りの公証役場に相談しましょう。
公証役場については、以下のページで探すことができます。
注意ポイント
公証人は出張のため不在のことがよくあります。そのため、いきなり公証役場に行っても相談を受け付けてもらえないことがあります。
必ず事前に予約をしてから公証役場へ行くようにしてください。
公証役場での事前打ち合わせでは何をするか?
事前の打ち合わせですることは、公証人が質問に答え遺言の内容を伝える作業になります。
- どのような財産があるのか
- 誰に財産を渡すのか
- 法律的な問題があればその指摘
- 費用の説明
- 公正証書遺言作成日の相談
などが行われます。
公証役場へ普段いったことないところで緊張するかもしれませんが、裁判所のような厳格な雰囲気ではなく、普通のオフィスのようなところが多いです。
公証人は優しい方が多いですし、受付の事務の女性も親切丁寧でアットホームな雰囲気なのでそんなに心配しなくても大丈夫です。
遺言の内容によっては、打合せが複数回になることもあります。
なお、事前打ち合わせには証人が同席する必要はありません。
健康状態によって公証役場に出向くことが困難な場合には、公証人に出張を依頼することも可能ですので相談してみましょう。
6.文案の確認・修正
公証人との事前打ち合わせが終わると、一週間ほどで公正証書遺言の文案と費用の提示があります。
次の点を確認しましょう
遺言書文案チェックポイント
- 自分の意志がきちんと反映されているか
- 住所、氏名、生年月日はあっているか
- 土地、建物の記載が登記事項証明書とあっているか
- 金融機関、通帳の番号等はあっているか
- 内容等に誤記がないか
公証人も多くの案件をかかえています。公証人も人間ですので内容の勘違いや細かい誤記があることもあります。
文案の提示があればあなたの目できちんと確認しましょう。
また、内容が遺言書の形式として記載されるので難しい専門用語が使われています。
内容について疑問があれば公証人に質問しましょう。
7.公正役場で遺言書を作成
公証役場からの文案で問題なければ、指定された日に公証役場へいって公正証書遺言を作成します。
当日の流れは以下のようになります。
作成当日の流れ
- 遺言者の本人確認
- 証人の本人確認
- 公証人が遺言者に遺言の内容を質問
- 公証人が遺言者に遺言書の内容を読み聞かせる
- 遺言者と証人が遺言書に署名・捺印
- 公証人が署名・印を押す
あなたが当日することは、
遺言書作成当日にすること
- 自分の氏名、住所、生年月日、職業を答える
- 遺言書の内容について公証人の質問に答える
- 遺言書に署名・捺印する
- 費用を支払う
といった簡単なことだけです。特に難しい書類に記入するというわけではないので安心してください。
公証人にしたがって手続きをすすめてください。
当日もっていくもの
公正証書遺言の作成当日は以下のものを持っていきます。
当日の持ち物
遺言者本人の持ち物
- 実印
- 印鑑証明書
- 手数料分の現金
証人の持ち物
- 認印
- 運転免許証又は健康保険証
正本と謄本の交付
遺言書作成が完了すると公証役場から正本と謄本が交付されます。
正本と謄本との間で法的な効果に違いはありません。
遺言執行者を選んだ場合には、「正本」を遺言執行者へ渡して、「謄本」はあなた自身か信頼できる家族に託して保管します。
正本と謄本についての保管場所については、銀行の貸金庫に預けるのはあまりおすすできません。
遺言書を開封するために銀行から相続人全員の署名・押印を要求され、開封して内容を確認することが大変になります。
なお、正本と謄本を紛失してしまっても公証役場に遺言書原本が保管されているので安心です。
公正証書遺言書の作成にかかる費用
公証役場で公正証書遺言書を作成する際の手数料は、財産の額によって変動します。
遺言書で渡す財産の額 | 手数料 |
100万円以下 | 5000円 |
100万円超200万円以下 | 7000円 |
200万円超500万円以下 | 11000円 |
500万円超1000万円以下 | 17000円 |
1000万円超3000万円以下 | 23000円 |
3000万円超5000万円以下 | 29000円 |
5000万円超1億円以下 | 43000円 |
1億円超3億円以下 | 4万3000円に超過額5000万円までごとに1万3000円を加算した額 |
3億円を超え10億円以下 | 9万5000円に超過額5000万円までごとに1万1000円を加算した額 |
10億円を超える場合 | 24万9000円に超過額5000万円までごとに8000円を加算した額 |
このほかに、製本の手数料が数百円かかります。
専門家に依頼した場合のメリット
公正証書遺言を専門家に依頼した場合、証人の手配を依頼した場合は、その費用は別途かかります。
公正証書遺言を弁護士、司法書士、行政書士といった専門家に依頼することのメリットとしては、
専門家に遺言書作成を頼むメリット
- 財産の分け方を相続税や不動産、遺留分などの専門知識をもとにアドバイスをもらえる
- 必要書類を収集してもらえる
- 公証役場との打ち合わせを代わりにしてもらえる
- 遺言執行者、証人の手配などまとめて頼むことができる
- 遺言の内容について、公証役場に比べていつでも相談できる
- 過去の相続トラブル事例などをもとにアドバイスをもらえる
- 遺言書以外の相続対策も一緒に相談ができる
といったことがあります。
きちんとした専門家に依頼すれば作成にかかる報酬にくらべて、相続対策としての効果は大きくなるのでぜひ検討してみてください。
まとめ
公正証書遺言は、公証人が作成し、保管もしてくれるのでもっとも安全な遺言の方法です。
家族への感謝の気持ちなど最後のメッセージを伝えることもできます。
相続トラブルは遺言書を書いてさえいれば防ぐことができたものが本当に多いです。
あなたの死後のことを考えるのは、なかなか機会がないかもしれません。
相続関連の仕事をしていて、遺言書が必要となったときに本人の判断能力が不十分で書けないケースが多いです。
相続対策としては公正証書遺言は必須なので、家族のためを思うなら早めに作成しておきましょう。