相続人である母が認知症のため遺産分割協議を行えない場合はどうしたらいいでしょうか?
遺産分割協議では認知症のお母さんは意思表明することができず、また法的にも認められていません。
こうしたケースでどのように遺産分割をすすめていけばいいかを解説いたします。
相続人に認知症の方がいる場合には後見制度の利用が必要
相続人に認知症の方がいる場合に遺産分割協議をする場合は、後見制度を利用する必要あります。
後見人がいない → 成年後見人を選任し、成年後見人と協議する
相続人以外の後見人がいる → 成年後見人と協議する
相続人が後見人(後見監督人あり) → 後見監督人と協議
相続人が後見人(後見監督人なし) → 特別代理人の選任申立てをして、特別代理人と協議
法律上認知症であるお母さんは自分で財産関係について決めることができません。
ですので代わりの財産を管理する人を裁判所が選任し、その人と話合いをすることになります。
相続人の中に後見人がいる場合は注意が必要
相続人の1人がお母さんの後見人となっている場合は注意が必要です。
遺産分割協議において、相続人は自分の利益を主張する立場ですが、後見人は、本人の意思を尊重し、本人の利益を図るように行動しなければなりません。
利益関係が衝突してしまうので、遺産分割協議において後見人としての仕事をすることができません。
たとえ全ての財産を母に相続させるというケースでも、後見人としての仕事はできません。
その場合は、相続人以外の第三者を選んで協議に参加してもらう必要があります。
- 後見監督人がいれば後見監督人が協議へ参加
- 後見監督人がいなければ特別代理人を選任して、特別代理人が協議へ参加
といった手続きが遺産分割協議をするうえで必要になります。
特別代理人の選任
後見人の利益相反となったときには、「特別代理人」を選任することを家庭裁判所に申し立てなければなりません。
この特別代理人が母の代わりに遺産の分け方を相続人と話し合うことになります。
成年後見監督人がお母さんの代わりに遺産分割の協議に参加することができるためです。
特別代理人は、家庭裁判所の審判で決められた行為(書面に記載された行為)について代理権を行使することになります。(家庭裁判所の審判に記載がない行為については、代理などをすることができません。)
家庭裁判所で決められた行為が終了したときは、特別代理人の任務は終了します。
したがって、遺産分割の協議については特別代理人がお母さんの代理となりますが、それ以外の業務、たとえば後見人としていつも行っているお母さんの預貯金の管理などは、いつも通り後見人である相続人が行なうことになります。
特別代理人選任の申立
特別代理人の選任申立は、被後見人(母)の住所を管轄する家庭裁判所で行ないます。
申立には、収入印紙・切手代と、以下の書類が必要となります。
特別代理人選任申立に必要な書類
- 特別代理人選任申立書
- 本人と申立人の戸籍謄本と住民票
- 特別代理人候補者の本籍地記載のある住民票又は戸籍の附票
- 遺産分割協議案
特別代理人選任申立書の書き方
特別代理人選任申立書は裁判所のページからダウンロードできます。
書き方は以下のようになります。
特別代理人の候補者について
申立のときに、特別代理人の候補者に関する住民票か戸籍の附票が必要となります。
特別代理人になるための資格は特にありません。相続人でなければ候補者になれます。
相続人ではない親族などが候補者となることが一般的で、多くの場合、家庭裁判所からその通りに選任されます。
選任が決まる前に、家庭裁判所から候補者本人へ照会の通知が届きます。
あなたの友人や知人に依頼しても問題ありませんが、特別代理人になると相続の手続きのための手間がかかります。
頼める人が身近にいなければ、お金はかかりますが弁護士や司法書士などの専門家に依頼することも可能です。
遺産分割協議書について
遺産分割協議書を利益が衝突していることの証拠として提出します。
特別代理人と話し合った遺産の分け方について書面に起こしたものを提出します。
注意ポイント
認知症の人が引き継ぐ財産は、法定相続分を下回らないようにします。
お母さんの相続分がを法定相続分を下回ると、利益が守られていないと判断されてしまいます。
それ相応の事情があってお母さんの相続財産を法定分より減らしたい場合には、専門家に相談することをおすすめします。
まとめ
遺言書を残していれば、遺産分割の話し合いをせずに遺言書のとおりに遺産を分け合うことが可能です。
その場合はもちろん、特別代理人を選任する必要もありません。
遺言書は認知症の相続人がいるときの相続対策になります。
認知症の相続人がいてどのように手続きを進めていいか分からない場合は、弁護士や司法書士といった相続手続きの専門家に依頼してください。