妻と二人で暮らしているこの家は、所有名義は自分になっているけれど、二人で助け合いながら暮らしてきたからこその家。
あなたはもちろん、この家は自分だけのものだなんて思っていないし、夫婦二人の持ち物だと思っているでしょう。
しかし登記上あなたの名義になっているのなら、その家はあなたのものです。
あなたの死後、妻がその家に住めなくなる、そんな可能性もあるのです。
あなたの死後、妻が住む家がなくなる?
たとえば、あなたに子供が1人いるとしたら、あなたの死後の財産は、妻と子供で1/2ずつが法律の相続分です。
不動産は3,000万円、預貯金は2,000万円で合計5,000万円の場合、それぞれの取り分は2,500万円です。
同居の妻が不動産を相続する場合、子どもが相続分に足りない500万円を請求してくるかもしれません。
相続となると子供の配偶者など、相続の権利がない人まで口を挟んでくることがあります。
子供夫婦に説得させられ、あなたの妻はしぶしぶ家を売却しなければならなくなるかもしれません。
登記上の所有者であるあなたが亡くなったら、妻は家を失うかもしれないのです。
あるいは、何とか話し合いで不動産を妻が、預貯金は子供が相続することになったとします。
そうなると、妻は家にはこれまでどおり暮らすことができます。しかし、これから一人で生活するための金融資産を引き継ぐことができないのでは、不安が残ります。
そういったリスクを回避できるのが、配偶者居住権の設定です。
法改正で新設される配偶者居住権とは
2018年7月6日の参議院本会議で民法相続制度の改正が可決され、7月13日に公布されました。
この改正のなかに、配偶者の居住権を保護するための方策が盛り込まれており、それが配偶者居住権の新設です。
まだ施行されていませんが、2019年7月までには施行されます。配偶者居住権とはどういった権利なのか、いまから確認しておきましょう。
配偶者居住権には2通りあります。
1.配偶者居住権
あなたが亡くなった時に、あなた名義の家に住んでいた妻は、「配偶者居住権」を取得することができます。
配偶者居住権とは、その家に無償で居住したり賃貸したりする権利です。その権利は、妻が亡くなるまで続きます。
これなら、妻は死ぬまで安心してこれまで通り家に住み続けることができ、自宅の売却を回避することができます。
また、配偶者居住権は、所有権を取得するときの財産の評価額に比べて小さくなります。
たとえば、3,000万円の不動産について、1,500万円で配偶者居住権を取得することができるとしましょう。(この評価額の算出方法は妻の年齢などによって変わります)
上記の例では、残りの1,500万円分は子供が相続し、預貯金の2,000 万円もそれぞれ半分ずつ相続することができるようになります。
現行の制度では、不動産の所有権の全部を取得しなければ住めなかった家に、1,500万円の居住権を取得することで住むことができるようになるのです。
浮いた分で預貯金も妻が相続できるようになり、妻が当面の生活費に不安を抱えることもありません。
配偶者居住権を取得する方法は3つあります。
- あなたが亡くなった後に行なわれる遺産相続についての話し合いの場で、妻が主張して取得する
- あなた自身が遺言書に書いて残す
- 子供が納得しない場合などは、調停を行なう
自分の死後の妻のことが心配なら、遺言書を残しておくことをおすすめします。
2.配偶者短期居住権
上記1の配偶者居住権は、妻が亡くなるまでその権利が有効ですが、配偶者短期居住権は6か月で消失してしまいます。
たとえば、あなたが遺言書を残し、その内容に「家と土地は生前お世話になった〇〇に遺贈する」と書いたとしましょう。
妻は、いきなり住む家と土地を失ってしまうことになります。
あるいは、あなたの死後に、相続人同士で話し合った結果、家と土地は売却することになったとします。
だからと言って、すぐに売られてしまっては、妻は住む場所がなくなってしまいます。
こういった事態の際に、急に妻が住む場所を失わずに済むよう、一定期間は妻の居住を保護するのが配偶者短期居住権です。
配偶者短期居住権が法制度として定められれば、同居の配偶者の権利がより強くまもられることになります。
まとめ
「自分が死んでも、家も土地もあるし預貯金も多少はあるから、妻が暮らしていくことに困ることなはいだろう」
と安心ばかりはできません。
夫婦二人で築いたマイホームは二人の財産でもあるはずです。
夫婦ともにいつまでも安心して暮らせるようできたのが配偶者居住権になります。