遺産分割協議書の内容がよくわからず言われるがままサインしてしまったが
あとから取消したいとなった場合に、取消することができるのかという問題があります。
原則、一度協議が成立した場合に勝手に取消をすることはできませんが、
過去の裁判例で取消が認められたケースもあります。
この記事では、
- どのような場合に取消ができるのか?
- 取消できないケース
- サインをするときの注意点と対策
について書いてみたいと思います。
遺産分割協議書の取消ができるケース
一度サインしてしまった遺産分割協議書の取消ができるのは、以下のようなケースです。
協議書の取消ができるケース
- 全員の合意がある
- 重要な財産や多額の借金があとから判明した
- あとから遺言書が発見された
- 詐欺や脅迫によって署名、押印した
まれに税務申告や葬儀費用の支払いに必要といわれサインしてしまったという場合に取消が認められていますが、
上記のような事情があっても裁判で取消できないという判断がくだされるケースがほとんどです。
全員の合意のよる取消
遺産分割協議は全員の合意があればやり直しすることができます。
「やっぱり納得いかないから内容取り消させてくれ」
といった場合に、全員のOKがもらえれば取り消せます。
ただし、遺産分割協議のやり直しをする場合に多額の贈与税が発生したり、
第三者との取引関係が問題になります。
重要な財産や多額の借金があとから判明した
遺産分割の重要な判断に影響する財産や借金がサインしたときよりあとから見つかり
「それが分かっていればそんな判断はしなかった」
といった事情があれば、民法第95条を根拠に取り消すことができる可能性があります。
民法第95条
(錯誤)
第九十五条 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
少額の財産の判明、ちょっとした勘違い、借金のことを知らされていたのに忘れていた等の事情
では取消ができないことに注意が必要です。
あとから知った重要な事実があれば、その遺産分割協議書にサインをしなかったという点がポイントなります。
あとから遺言書が発見された
遺言書が存在していても、遺産分割協議が成立した場合には、
基本的に遺産分割協議に従って財産を分けることになります。
ただ遺言書があとからでてきたことで、相続人の範囲が変わることがあります。
遺言書では、
- 相続人の廃除(相続人の資格を失わせる手続き)
- 子の認知
- 相続人以外への遺贈
といったことができるからです。
また、遺言の内容を知っていれば遺産分割協議書の内容に合意しなかったであろう
といえる事情があれば取り消すことができる可能性もあります。
ですので、相続手続きでは、遺産分割協議の前に遺言書がないかを確認する必要があります。
詐欺や脅迫によって署名、押印した
一般の取引と同じように、詐欺や脅迫によってサインさせられた場合も
取り消すことができます。
取消できないケース
遺産分割協議にサインをしたあと約束が守られなかった場合は、取消できそうですが、
実は取消ができません。
実際の裁判例でも取消が否定されています。(最高裁判所平成元年2月9日判決)
例えば、以下のようなケースです。
取消できないケース
- 相続不動産の売却代金をみんなで分ける約束をしたが払ってくれない
- 残された預貯金を相続人代表者が手続きをしたが、相続分を支払ってくれない
この場合は、遺産分割の取消を要求しても認められないので、
調停や裁判によって金銭を請求することになります。
まとめ
一度遺産分割協議書にサインをしてしまうと取り消すことは難しいです。
法律を知らなったからと言ってもあとの祭りです。
遺産分割協議書にサインと押印をする場合には、内容をよく確認してからにしましょう。
不明点がある場合には、弁護士や司法書士といった専門家に確認をしてもらうのも有効な手段です。