介護の負担をした相続人としていない相続人との間で、相続のトラブルが起こるケースが非常に多いです。
法律上は、介護の負担というのは相続財産を分ける上で一切考慮はされません。
しかしながら、法律の規定どおりに分けると介護をした相続人は不満が高まり、相続争いへとつながります。
介護をした人にどのように配慮して相続財産を分けるべきかということを実際の相続トラブル事例を見ながら解説したいと思います。
祖父の介護が相続トラブルに
実際に介護をしていた相続人がどのように感じるのかということについて、弊所に寄せられた相続トラブル体験談を見ていきましょう。
以下のケースでは、祖父の介護をした相続人が、相続において多く請求した事例です。
相続トラブル体験談
普段から兄弟や親せきなどでは連絡などを取り合っていたので、他の人から見ると仲のよい家族だと思われていました。
そんな私たちの間でトラブルが発生したのは、祖父の遺産の分け方について話し合いを持つことになってからのことです。
病気がちの祖父でしたが、祖母はすでに他界しているため誰かの介護がなければ生活を送ることができないような状態でした。
祖父は一人暮らしをしていたため日常生活のサポートは、比較的近くに住んでいる私たち家族です。
食事の用意や入浴などはもちろん、病院や買い物などでの外出も私がほとんど一緒に行っているような状況でした。
他の兄弟や親族からすれば、近くに住んでいるのだから当然だろうと考えられているような状態です。
病院などへの送迎は必要なものなので、なるべく付き添ってあげたいと考えていました。
そうは言っても私にも仕事や家族があるため、常に一緒に行動することは次第に困難な状況です。
そのことを他の兄弟に相談しても、遠方に住んでいることや仕事などを理由にして協力してくれる様子はありません。
毎日の生活を削りながら祖父の介護などをしていたので、相続の時にはその分を考慮してくれと相談してからトラブルが始まりました。
祖父が残した遺産は、わずかばかりの現金と所有している不動産物件です。現金は多くなかったのですが、その相続の手続きは今までしてきた介護などを考慮してくれようとはしませんでした。毎日のように病院などへの送迎をしていたので、車のガソリン代などの交通費がかなり高額になっています。送迎で車を使うと車体やタイヤなどの痛みも進んでしまうため、少しだけでも増やしてくれるように頼んでみました。
遺産として残してくれた現金は少ないので、そのほとんどを私が受け取っても十分な金額にはなりません。
そのような状況でしたが、兄弟や親族は少ない現金も同じように分割するという答えでした。
病院や買い物だけではなく普段の生活に必要な食事や入浴などのサポートをしてきましたが、家族なのだから当たり前だろうと言うだけの状況です。
ガソリン代の領収書などが保管してありましたが、取り合ってくれる様子は全く感じることができません。
祖父は急に他界してしまったので、遺言書がないことも相続のトラブルを大きくしてしまった原因です。遺言書に普段の様子を考えるように記載してあれば、このような相続トラブルを回避できたかもしれません。
トラブルを大きくしてしまったのは、少ない現金の分配方法だけではありませんでした。
祖父が所有していた不動産の分け方について手続きを進めようとしても、長男が多く要求してきたためもめてしまうことになりました。
長男の考えていることは、祖父の残した土地はそのままで自分の分だけ現金を受け取ることです。
土地の評価額などは自分で決めてしまい、その金額に基づいた遺産を要求してきました。
何度も話し合いをしてきましたが、親族の間だけでは問題が解決するよすがありません。このままでは兄弟がバラバラになってしまうと考え、知識の豊富な専門家に相談することにしました。
専門家に相談すると料金がかかると言って断っていた兄弟に話したのは、相続トラブルで仲たがいをしないためには必要だと言うことです。
信頼できる専門家を知人から紹介してもらい、遺産の分配方法などを決める手続きを始めてもらいました。兄弟や親族の間では認めようとしなかった長男も、専門家が提示した分け方には納得してくれたようです。
日常的な介護を続けてきた私の要求も、専門家に相談したことで認めてもらうことができました。早い段階で相続についての相談を専門家にしたので、全員が納得できる手続きをすることができよかったです。
トラブル回避のポイント
介護の貢献に関して遺産分割のトラブルを回避する方法としては、
トラブル回避の方法
- 介護に関する労働を金銭換算する
- 介護にかかった費用(ガソリン代等)を計算する
- 労働、費用負担を客観的に数値化し、相続人同士で話し合う
といった手順を踏みます。
ポイントとしては、
親の介護をしていた相続人がいるときには、その分を必ず考慮に入れて話合いをする
という点です。
遺産分割のトラブル回避するためには、過程が重要です。
遺産分割協議では介護の点をきちんと話題にあげましょう。
全員が納得していれば、分け方については等分や、一人が全てを相続するといった方法で問題ありません。
それぞれの感情面へ配慮しながら話合いをすすめることがトラブル回避につながります。
できれば中立的な第三者の専門家がいることが望ましいです。
介護をした相続人が注意すべきこと
「親の介護」は寄与分として認められにくいという認識が必要です。
介護をした相続人から他の相続人に対して、多くの財産を請求できる権利ではないということです。
特別に多く財産を請求できる場合は、
- 通常の親子関係として一般的に期待される以上の特別の介護をした
- 相当長い期間継続的に介護に従事していた
- 無償で労務を提供していた
- 本来仕事として行うのと同程度に関わっていたこと
- 介護をしたのが法定相続人であること
の全てことが必要です。
介護をした相続人側も他の相続人への配慮は必要です。
法改正後の介護の負担の扱い
相続法の改正で、相続人以外が故人の介護をした場合に、相続人に対して金銭を請求できる権利が新設されます。
今までは、相続人でない子供の妻が介護に当たった場合、寄与分は一切認められませんでした。
改正後は、
- 配偶者
- 6親等以内の血族
- 3親等以内の姻族
が金銭を請求できるようになります。
一見、平等な取り扱いに思えるかもしれませんが、遺産分割での争いが多くなりかねない制度です。
今後は血族以外の人も遺産分割に関わってくることになります。
今まで以上にデリケートな話合いが求められます。
遺産分割でもめ事が起こったときの対処法
遺産分割でもめ事が起きそうな場合は、早期に弁護士等の第三者の専門家をいれましょう。
体験談にもありますが、一度相続人同士で不信感が広まってしまった場合は、当事者同士の話合いで解決するのは不可能です。
そのような場合は、客観的に判断を下してくれる中立な立場の専門家が必要になります。
また、もめ事が発生し、話合いの継続が困難になった場合は、裁判所での手続きで解決していくしかありません。
裁判所での手続きは、
- 遺産分割調停
- 遺産分割の審判
の2つで行います。
まずは、遺産分割調停からすることになるでしょう。
こちらは解決までに半年~数年はかかるので、できれば避けたいところですね。
遺産分割でトラブルが起きたら
話し合いが可能 → 弁護士等の専門家へ依頼
話し合いが不可能 → 家庭裁判所へ遺産分割調停の申立て
まとめ
介護の負担を考慮しない相続財産の分割はトラブルにつながります。
遺産分割の際は、きちんと介護の負担まで考慮にいれましょう。
遺産分割の問題は、法的な問題というより、家族間の感情の問題になります。
正しい知識と客観的なデータを使って、相続人全員が納得できるような協議を行うようにしてください。