相続財産はあるけれど、特に財産はいらないという場合は、相続分の譲渡という手続きが使えます。
相続放棄という言葉聞いたことあるけれど、「相続分の譲渡」となるとあまり聞きなれない言葉ですよね。
相続手続きをするときには、相続放棄以外にも相続分の譲渡が有効な場合があります。
知識としてもっておくのは損ではありません。
相続分の譲渡とは何なのか、どんな場面で使えるのか解説いたします。
相続分の譲渡とは?
相続分の譲渡とは、文字通り自分の相続分を他人にあげてしまうことをいいます。
相続人だけでなく、まったく関係のない第三者に行うこともできます。
相続分とは、預金や不動産といったプラスの財産だけでなくマイナスの財産である借金も含まれます。
ですので、相続分の譲渡は相続人としての地位を誰かにあげるという手続きになります。
相続分の譲渡をした場合は、相続人としての地位がなくなりますので、
相続分の譲渡のメリット
- 遺産分割協議に参加する必要がなくなる
- 親族間でもめて調停や裁判になった際にも相続争いに巻き込まれずにすむ
といったメリットがあります。
また、相続分の譲渡は有償ですることも可能です。
自分の相続人としての権利を誰かに買い取ってもらうといった使い方ができます。
相続分の譲渡のやり方
相続分の譲渡は、口頭で行うこともできますが、実務的には「相続分譲渡証書」を作るのが一般的です。
書面を作成しておかないと、相続手続きや相続争いに巻き込まれることになります。
相続分譲渡証書があれば、譲り受けた人が不動産の登記手続きをおこなったり、裁判所へ出頭しなくてすむよう手続きができることになります。
相続分譲渡証書の内容としては、
- 被相続人の情報(本籍、最後の住所、生年月日、死亡年月日)
- 相続分を譲渡する人の情報
- 相続分を譲り受ける人の情報
- 相続分の譲渡を行う旨
- 相続分の譲渡の時期
- 相続分の譲渡の条件
などを記載します。
また譲渡人と譲受人の両方の押印をしておいた方がいいです。
裁判所へ証明書類として提出する際には、両者の記名・押印が必要になるからです。
相続放棄との違い
相続分の譲渡と似たものとして相続放棄があります。
相続放棄とは、はじめから相続人でなかったことになる制度です。
相続分の譲渡とは以下の点が違います。
相続放棄と相続分の譲渡との違い
- 借金の相続をせずにすむ
- 相続放棄した財産を誰かにあげることはできない
- 裁判所での手続きが必要
- あらたに相続人がでてくるケースがある
多額の借金がある場合は相続放棄を選択
相続放棄を一番活用するのは、亡くなった方に多額の借金があった場合です。
相続分の譲渡では、借金を他人に譲ることはできますが、債権者は譲渡をする前の相続人に請求することができます。
でないと、一人の相続人に借金を押し付けて、自己破産させ、プラスの財産だけを他の相続人が相続することが可能になってしまいます。
それは、債権者を不当に害することになるので認められていません。
ですので最初から相続人でないことにする相続放棄を使うことになります。
相続放棄では誰かに財産を託すことはできない
相続放棄をした場合、はじめから相続人ではありませんので、自分の財産を他の相続人の誰かに譲りたいといったことはできません。
まったく相続とは無関係の人間になるのが相続放棄です。
相続放棄は裁判所での手続きが必要
相続放棄をするためには裁判所で手続きをしないと効果がありません。
ただ自分を相続放棄しますと宣言するだけでは何の効果ももちません。
相続放棄のやり方については、以下の記事に詳しく書いていますので参考にご覧ください。
-
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相続放棄では新たな相続人の登場が、、、
相続放棄では、新たに相続人が登場してくることがあるので注意が必要です。
親に全額相続させるつもりで子が相続放棄を行ってしまうと、親の兄弟が新たに相続人として登場したりします。
相続放棄した人以外にも影響を及ぼすので注意が必要になる手続きです。
相続分の譲渡では、相続人間の関係性は変わらないためこういったことは起こりません。
相続分の譲渡の有効活用事例
相続分の譲渡が役に立つケースは以下のようなものになります。
- 不動産の相続で特定の相続人だけがもめている
- 遺産分割調停の知らせがきたが巻き込まれたくない
- 相続分のお金はもらいたいが、遺産分割協議は面倒なので参加したくない
特定の相続人だけがもめているケースでは、相続分の譲渡をして買い取ってもらい他の相続人は全員相続争いから逃げるという手段があります。
遺産分割の争いは数年に及ぶケースも多く、裁判所へ出頭しないといけないため大変な負担になります。
基本は手続きや争いが面倒だと思ったら相続分の譲渡を検討してみましょう。
相続分の譲渡での登記手続き
不動産に関して相続分の譲渡をしたケースでは、相続分譲渡証書を使って名義変更の手続をします。
特定の人が相続分の譲渡をした場合には、遺産分割協議には参加しません。
遺産分割協議書に相続人の名前がでてこない理由を証明するために、相続分譲渡証書をつけることになります。
相続分の譲渡をしたときの登記手続きの添付書類については以下のようになります。
<法定相続 + 相続分の譲渡 の ケース>
- 相続分譲渡証書
- 被相続人の出生から死亡までの戸除籍謄本
- 被相続人の除住民票
- 相続人の住民票
- 固定資産評価証明書
<遺産分割協議 + 相続分の譲渡 のケース>
- 遺産分割協議書
- 相続分譲渡証書
- 被相続人の出生から死亡までの戸除籍謄本
- 被相続人の除住民票
- 相続人全員の印鑑証明書
- 不動産を取得する人の住民票
- 不動産の固定資産評価証明書
まとめ
相続分の譲渡は相続争いに巻き込まれたくないときに有効な方法です。
とくに遺産分割調停といった裁判所が絡んだ手続きでは参加すること自体が大変なので検討してみてください。
相続分の譲渡は相続放棄と似ていますので、その違いについてきちんと理解してから利用するようにしましょう。