親は高齢ではあるけどまだまだ元気だし・・・と思っていたら急に倒れてしまった、という事態もゼロではありません。
つい最近まで元気だったのに、医者からはもう危ないと言われてしまったら。
そんなとき、遺言書はあるかどうかなんてとても聞けませんし考えている場合でもないでしょう。
もし遺言書を作成していなかったら、緊急の作成方法があることをご紹介します。
特別方式遺言の種類
一般的な遺言書は、自筆した自筆証書遺言と公証役場で作成する公正証書遺言です。これらの遺言書は普通方式と呼ばれます。
まずは、元気なうちに両親が普通方式の遺言書を作成しておいてくれることがベストですが、そのうち作ろうと思っているところへ病気や危機はやってくるかもしれません。
緊急事態や特殊な状態で作成する遺言を特別方式遺言といいます。
特別方式遺言には以下の種類があります。
特別な4種類の遺言
◆一般危急時遺言
病気やけがで死亡の危急が迫ったときに行う遺言です。一般臨終遺言とも言います。
◆難船危急時遺言
船舶や飛行機に乗っていて死亡の危急が迫ったときに行う遺言です。
◆一般隔絶地遺言
伝染病による行政処分で交通を断たれた場所にいる人が利用できる遺言です。
◆船舶隔絶地遺言
船舶に乗っていて陸地から離れた場所で行う遺言です。
急病時に使えるのは、この中の一般危急時遺言と呼ばれるものです。
一定の手続きを取れば急病で文字が書けなくても口頭で遺言書を作成することができます。
ただし、特別方式の遺言はあくまで緊急措置であるため、普通方式遺言が可能になって6ヵ月間生存した場合には無効になります。
急病時の遺言の作成方法
急病時に遺言書を作る方法は以下のようになります。
- 証人を3人集める(推定相続人等以外)
- 遺言の内容を口頭で伝え、証人1人が筆記
- 内容を確認して、証人3人が署名・捺印
- 20日以内に家庭裁判所の審判を受ける
急ぎで作る遺言なので
「全財産を妻に」
などの簡単な内容でも構いません。
とにかく意識があり、口頭で意思を告げることだけが求められます。
近い家族は証人になれない
まず、証人を3人集めなければなりませんが、
妻と兄弟で合計3人というわけにいきません。
証人になれない人は以下のとおりです。
注意ポイント
①未成年者
②推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
③公証人の配偶者、4等身内の親族、書記及び使用人
配偶者や子は証人になれません。
利害関係のない人を3人集める必要があります。
後日の争いを防ぐために医師の立ち合いのもと行う
意識がはっきりしている状態でなければ、一般危急時遺言は残せません。
ただ、本当に当時意識がはっきりしていたのかは書面では証明できません。
一般危急時遺言を作成する場合には、医師に証人として立ち会ってもらったり、現場を動画で撮影したりして、後日争いになることを防ぎます。
3人の証人の立ち会いのもと、父は自分の言葉で遺言の内容を話します。
このとき、家族などの利害関係人は同席しないほうが無難です。同席したとしても、絶対に口をはさんだりしてはいけません。
証人のうちの1人がその内容を筆記し、筆記した内容を父とほかの証人2人に読み聞かせます。
内容に誤りがないことを皆で確認できたら、証人3人は署名・捺印します。
内容の筆記はできれば専門家にしてもらう
この内容の筆記ですが、父の言ったことを遺言書としての要件を満たすように書かねばなりません。
たとえば不動産の相続についてであれば、遺言書の内容として土地の地番が明確になっていなければなりません。
したがって、証人の1人は弁護士、司法書士などの専門家に依頼したほうがよいでしょう。
家庭裁判所での手続き
一般危急時遺言は、作成しただけではまだ効力を持ちません。
遺言の日から20日以内に、証人の1人又は利害関係人から家庭裁判所に対して請求を行い、家庭裁判所の審判を得る必要があります。
家庭裁判所で
遺言の内容が父の真意に基づいたものか、家庭裁判所は父が生きていれば父に直接確認し、死亡や意識不明の場合には立ち会いの医師や関係人等から聞き取りを行い調査します。
この確認作業を終えないと遺言書として有効になりません。
また、亡くなった後は、再度家庭裁判所に出向いて、遺言書の検認手続きを受ける必要があります。
急病時の遺言書の書き方のまとめ
急病時の遺言の方式である一般危急時遺言はあくまでイレギュラーな方法です。
親の死期が差し迫っているときに、遺言書の作成でバタバタするというのはできれば避けたいところ。
また、緊急時に作成できるといっても、親の意識がはっきりしていない、急に証人を集められない、といった理由で作成できないかもしれません。
実際に危急時遺言で遺言書を作成することは少ないです。家庭裁判所の担当官ごとに年1~2件あるかないかというところです。
できれば一般危急時遺言を利用することにならないように、元気なうちから遺言書を書いておいてください。