通常、相続財産の半分は配偶者が相続します。しかし、妻が認知症の場合、自分で相続財産を管理することができません。
そこで成年後見制度というものを利用すれば、妻の財産管理を代わりに誰かにしてもらえます。
しかし、成年後見制度では財産を管理する人に必ずしも家族がなれるわけではありません。誰が成年後見人になるか、決めるのは家庭裁判所なのです。
財産が多い場合は、弁護士や司法書士などの専門家が後見人に選ばれます。
こうした専門家には、月々の報酬を支払い続けなければならないため、かなりの負担となります。
自分の信頼できる家族に財産の管理を託す場合は、成年後見制度でなく家族信託を検討してみてください。
あなたの信頼のできる家族に財産を託して、柔軟な財産の活用をすることができます。
家族信託について認知症の家族のためにどのように財産を残すことができるかを解説いたします。
家族信託を設定して自由な遺産相続を
家族信託とは、あなたの財産を信頼できる家族に託して、誰かのために管理してもらう方法です。
信託には、以下の3人の登場人物がいます。
- 委託者
- 受託者
- 受益者
委託者とは、財産を持っている人で、自分の財産管理を誰かに託します。
受託者は、委託者から財産管理・処分を託される人です。
受益者は委託者の財産を受託者が管理し、その財産の利益を受ける人が受益者です。
信託の方法は以下のような図で表すことができます。
家族信託で妻のために家族に財産を管理してもらうためには?
家族信託を利用してあなたの財産を妻の介護にあてたい場合、あなたが委託者となり、子供に財産を託します。
受託者である子供が財産を管理し、受益者である認知症の妻の生活に必要な費用にあてます。
信託契約の設定の仕方によっては、信託契約内の財産はあなたの死後も子供が管理することができます。
つまり、あなたの託した財産については相続の名義変更手続きをしなくてすむケースもあるのです。
成年後見制度の場合、認知症の相続人に渡す財産は基本的に法律で決められた割合以下にすることができません。
あなたの財産は妻に1/2、子供に1/2ずつ分割されます(子供が複数の場合は子供のなかで1/2をさらに分割します)。
あなたがいくら、子供に財産をすべて相続させて妻の生活費として使うようにしてもらいたいと思っていても、その意思は実現するのは難しいです。
妻にわたった1/2の財産は、妻にしか管理・処分できませんから、実質的には妻が亡くなるまで塩漬けの状態となります。
しかし、あなたと長男の間で家族信託を設定していれば、あなたの死後も引き続き、長男があなたの財産を管理することができるのです。
生きているうちから子供に託せるメリット
家族信託のポイントは、あなたがいままで自分で行なってきた財産の管理を、生きているうちから子供に託すということです。
それによって、
- 自分の思うような財産の引継ぎをすることができる
- 妻が認知症であっても相続税対策をすることができる
- 信頼できる子どもに財産の管理をしてもらえる
というのが家族信託のメリットです。
あなたが元気なうちは、子供に財産管理について指示を出したり監督することも可能です。
妻の症状が重くなったらどうするとか、自分の死後に起こりえることなど先のことも決めておくことができます。
子供にとってもメリットがあります。
あなたが死んで急に「遺産は全て子供の〇〇に相続させるからその財産で妻の世話をすること」という遺言書を残されていたら、どうしたらよいか困ってしまうかもしれません。
家族信託を設定することで、あなたが生きているうちから状況を把握して、相談しながら管理していけることは子供にとって安心でしょう。
孫を受益者とすることも可能
妻の死後には信託管理していた財産から利益を受ける権利は相続の対象となります。
通常の相続の場合、子供が管理していた財産は、子供が一人ならそのまま自分が相続することになります。
また子供が複数いる場合は、法定相続分と同じく均等に分けるか、話し合いによって取り分を決めることになります。
ただ、信託契約の中では、最初の受益者である妻の死後の、次の受益者を設定することも可能です。
妻の死後は、たとえば受託者となってくれている長男の子(あなたの孫)を受益者とするように指定すれば、あなたの財産は今度は孫のために使われるようになるのです。
通常の遺産相続では、相続の対象となるのは子供までで、孫は相続人になりません。
子供が複数いて、長男と信託を設定していた場合、無償で財産管理をしてくれている長男に遺産が多くいくようにしてあげたいと思いますよね。
そんなときは、長男の子が次の受益者となるようにすることで、長男に還元してあげることができるでしょう。
家族信託を設定することで、あなたの死後のその先まで、財産の行方を指定することが可能となるのです。
まとめ
家族信託は、自分が認知症になってしまった時に、自分の財産を自分のために使ってもらうための対策としても有効ですが、このように自分以外の人を受益者として活用することもできます。
また、遺言書とちがって自分が生きているうちから、自分の財産について家族と話したり相談したりすることができるのも安心ですね。
元気なうちに、一度家族と話し合ってみましょう。