相続においては、ほとんどの場合遺産分割協議が行われます。
「お母さんが土地と建物、兄が現金預金、弟が株を相続しよう」
といった風に話し合いで受け取る財産を決定します。
この話合いを遺産分割協議といいます。
遺産分割協議で必要なことは、
すべての相続人の話し合いで決めること
です。
認知症の家族がいる場合、この話合いがうまくできませんので困ってしまいます。
認知症の家族がいる場合に遺産分割協議で財産を分ける方法について解説いたします。
認知症の家族がいる場合には成年後見制度を活用しなければならない
まず物事をうまく判断することができない認知症の家族と話合いをしてまとめたとしても、その協議は無効になります。
物事の正しい判断をする能力が不十分な人に財産関係の権利を行使させると、一方的に不利な条件を飲まされてしまう可能性があり、法はこうした人を保護しています。
勝手に認知症の家族の代わりに遺産分割協議書に署名捺印をした場合には、犯罪行為として罰せられる可能性もありますので注意が必要です。
話合いをするためには、法律で定められた代理の人が必要になります。
この代理の人を選任してもらうために必要なのが成年後見制度の利用です。
成年後見制度とは?
成年後見制度とは、精神上の障害によって物事をうまく判断することができなくなってしまった人を保護して、その人の代わりに判断してくれる人をつける制度です。
成年後見制度には、本人の物事を判断する能力によって以下の3つの制度があります。
- 後見
- 補佐
- 補助
自分一人で物事の判断ができなくなってしまうような認知症の場合は、後見制度が適用され成年後見人という人が選ばれ、本人の代わりに判断をしていくことになります。
成年後見人を選ぶのは家庭裁判所です。
成年後見人としては
- 親族
- 弁護士、司法書士、社会福祉士等
- 親しい知人
等が選ばれます。
この中でも最も多く成年後見人に選ばれているのが、弁護士、司法書士、社会福祉士等の資格者になります。
家族が希望した人が必ず成年後見人になれるわけではなく、家庭裁判所が一度決定をしてしまうと、家族でもその決定に対しては文句をいうことができません。
成年後見制度の利用の仕方
家族が認知症で遺産分割協議が出来ない場合は、本人の住所地を管轄する家庭裁判所に対して申立てを行わなければなりません。
例えば、藤沢市の方の場合は関内駅と石川町駅の間にある横浜家庭裁判所というところに書面を準備して申し立てることになります。
申立てをすることが出来る人については法律で決まっていて
- 本人
- 配偶者
- 四親等内の親族
- 未成年後見人
- 未成年後見監督人
- 保佐人
- 保佐監督人
- 補助人
- 補助監督人
- 検察官
が申立てをすることができます。
他にも、任意後見契約を受けている人や市区町村長などが申し立てられる場合もあります。
後見制度申立てに準備する書類
後見制度の利用には書類を集める必要があります。
必要な書類は以下のものです。
1.本人(認知症の家族)について
- 戸籍謄本
- 住民票(世帯全部、省略のないもの)
- 登記されていないことの証明書
- 診断書(成年後見用)
2.成年後見人候補者について
- 戸籍謄本
- 住民票(世帯全部、省略のないもの)
- 身分証明書
- 登記されていないことの証明書
3.その他
- 各家庭裁判所に用意された形式の書類(事情説明書、親族関係図等)
- 財産目録及び収支状況報告書
- 財産・収支に関する資料
これらを申立書とともに家庭裁判所に提出することになります。
後見制度の利用後遺産分割協議を行う
成年後見人が選ばれるまでには、約1カ月~2ヵ月ほどかかります。
この間は遺産分割協議を行うことができません。
また認知症の家族の代わりに話合う、成年後見人も自由に財産の分け方を決定できるわけではなく、
法律で決められた相続の割合を下回るような協議に同意することはできません。
こうした制約がついた中で話合いをして相続財産の分け方を決定していくことになります。
認知症の家族がいる場合の相続対策
上記のとおり、認知症の家族がいる場合の手続は非常に煩雑で時間もかかります。また相続財産の分け方も硬直的になりその後の相続で多額の相続税の負担を強いられることもあります。
こうしたことを防ぐには生前の対策が重要になります。
利用する制度としては、
- 遺言
- 任意後見契約
- 家族信託
等様々なものがあります。
将来的に相続に不安をかかえる方は今のうちに準備をしておくことをおすすめいたします。