亡くなった方が生涯独身で子がなく、両親もすでに他界し、兄弟もいない。今後の日本では、そういうケースは増えてくるでしょう。
法定相続人が誰もいない方が亡くなった場合、遺産はどうなるのでしょうか。
あるいは、法定相続人は存在しているけれども、全員が相続を放棄した場合、その遺産は誰が管理するのでしょうか。
相続人がいない遺産は、最終的には国のものとなります。しかし、国庫に帰属させるための手続きも誰かがしなければなりません。
相続財産管理人の選任
誰も手続きをする人がいないからといって、全くの他人が勝手に手続きをすることはできません。
そこで、相続財産管理人が選任されます。相続財産管理人は、利害関係人や検察官の申立てによって家庭裁判所が選定します。弁護士や司法書士などの専門家が選任されるケースが多いです。
相続財産管理人の選任を申立できるのは利害関係人や検察官ですが、検察官が申立を行なうことはほとんどありません。
では、どのようなときに利害関係人が相続財産管理人の選任申立を行なうのでしょうか。
①被相続人に債務がある場合
被相続人が借金をしていて、その返済をしてほしい債権者が利害関係人となることがあります。
通常であれば、亡くなった方の相続人に返済を要求することができますが、相続人がいないとなると貸したお金が返ってきません。
そこで、相続財産管理人の選任申立を行ない、被相続人の遺産の中から債務を返済してもらえるよう手続きを行うことがあります。
②特別縁故者である場合
特別縁故者とは、被相続人と生計をともにしていた内縁の配偶者や事実上の養子、または被相続人の看護や介護をしていた人です。
家庭裁判所から特別縁故者であると認められれば、相続財産管理人の選任申立を行ない、法定相続人でなくても相続財産の分与を受けることが可能になります。
③相続放棄した相続人が相続財産を管理している場合
相続人は、相続を放棄した後でも次にその遺産を管理する人が決まるまでは管理し続ける義務があります。
使いもしない空き家をいつまでも管理することになれば費用も労力もかかります。そこで、相続財産管理人を選任することによってその後の管理を相続財産管理人に引き継ぐことが可能になります。
相続財産管理人の選任申立に必要な手続き
相続財産管理人の申立には以下の書類が必要となります。
相続人が存在していない、ということを明らかにする必要があるため、とても多くの書類を集めなければなりません。
利害関係人で上記③に該当する場合は自分で書類を集めることも可能ですが、そうでない場合は取得が難しいため専門家に相談しましょう。③に該当する場合でも、複雑で煩雑な作業となるため専門家に相談することをおすすめします。
・相続財産管理人選任の申立書
・被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本
・被相続人の両親の出生から死亡までのすべての戸籍謄本
・被相続人の子供で死亡者がいれば、その子供の出生から死亡までのすべての戸籍謄本
・被相続人の兄弟姉妹で死亡者がいれば、その兄弟姉妹の出生から死亡までのすべての戸籍謄本
・被相続人の直系尊属(親など)の死亡者の出生から死亡までのすべての戸籍謄本
・代襲者となる甥や姪で死亡者がいれば、その甥や姪の出生から死亡までのすべての戸籍謄本
・被相続人の住民票除票または戸籍附票
・財産を証明する書類 ※不動産登記事項証明書(登記している場合)、固定資産評価証明書(未登記の場合)、預貯金や有価証券の残高がわかる書類等
申立をした後の流れは、以下のとおりです。かなりの時間を要することがわかります。
家庭裁判所が相続財産管理人を選任、官報で公告する(2か月間)
↓
上記を経過しても相続人が見つからない場合は、相続財産管理人は、被相続人の債権者や受遺者(被相続人から財産を受け取る予定があった人)に申し出るよう官報で公告する(2か月以上)
↓
上記を経過しても相続人が見つからない場合は、相続人捜索の広告を行なう(6か月以上)
↓
それでも相続人が見つからなければ、相続人がいないこと(相続人不存在)が確定
↓
特別縁故者への財産の分与
↓
残った財産を国庫に帰属させる
相続財産管理人の選任にかかる費用
選任申立の手続きの代行を専門家に依頼するとなると費用がかかります。
さらに、選任申立そのものにかかる費用を家庭裁判所にも支払わなければなりません。
具体的には、以下の費用がかかってきます。
◆申立費用
裁判所の手数料として800円を収入印紙で支払います。
◆連絡用の郵便切手
申立をする家庭裁判所によって異なりますが、1,000円に満たない程度です。
◆官報公告料
相続財産管理人が選任されると官報に掲載されます。その掲載にかかる費用として3,775円かかります。
◆予納金
相続財産管理人が業務を行うための経費、報酬です。金額は、事案に応じて家庭裁判所が決定しますが、20万~100万円程度です。余った場合は返納されます。
相続財産管理人を選任せずに相続する方法
相続財産管理人を選任するには、とても手間がかかりますし、時間もお金もかかります。
自分の介護をしてくれている人や、内縁の配偶者、養子同然に一緒に暮らしている人などに、法定相続人ではないけれども自分の財産を相続させることはできないものか。
そんなときには、遺言書を残しましょう。
遺産は通常は法定相続人が相続の権利を持っていますが、遺言書があれば法定相続人以外の人でも相続することが可能です。
遺言書作成にあたっては、専門家に相談するのが確実です。
もちろん、スムースな財産相続のことを考えて婚姻届を出したり養子縁組をしておくことも一つの手です。
万が一、特別縁故者であることが認められなかった場合、遺産を相続することができなくなってしまいますから、法定相続人にしておけば安心です。
まとめ
いざというときのために、周りにいる大切な人とは財産の相続について話し合っておきましょう。
自分に相続人がいない場合だけでなく、身寄りのない人と生計を一つにしている場合も同様です。
親しい間柄とはいえ相続の話をするのは気が引けるかもしれませんが、生きているうちしか話せません。きちんと手続きまでしておきましょう。