相続不動産には抵当権が設定されたままになっていることがあります。
抵当権が記載されているということは、書類上は不動産が担保に入っていることを意味します。
抵当権をそのままにしておくと様々なデメリットがあるのでなるべく早く処理しなければなりません。
うちの事務所でも相続時に抵当権をどうしていいか分からないといった相談が多いです。
ですので、あなたの相続した不動産に抵当権がついていた場合にどうしたらいいかについて書いてみます。
相続不動産に抵当権が記載されていた時の対応
相続不動産の抵当権の処理については以下のような流れになります。
- 不動産を調べる
- 借金が残っているかを調べる
- 相続登記をする
- 抵当権について手続きをする
抵当権をそのままにしておくと不動産について様々な不都合が生じるので、なるべく早めに抵当権の記載を抹消できるように手続きを進めます。
抵当権の手続きは、抵当権の権利を付けている人の協力が必要になります。
抵当権がついているかの調べ方
相続する不動産に抵当権が設定されているかを調べるには、不動産の登記事項証明書で調べます。
不動産の登記事項証明書は、全国どこの物件でも最寄りの法務局で取得することができます。
藤沢、鎌倉、茅ヶ崎では、横浜地方法務局湘南支局が一番近いですね。
以下が不動産の登記事項証明書です。
登記事項証明書は、上から順番に
- 表題部
- 権利部(甲区)(所有権に関する事項)
- 権利部(乙区)(所有権以外の権利に関する事項)
という記載になっています。
抵当権が記載されているのは、権利部(乙区)になります。
抵当権が設定されている場合は、権利部(乙区)に抵当権設定という記載があります。
記載に下線が引いてあるものについては、すでにその権利は抹消されています。
下線の引いていない抵当権設定という記載があれば、抵当権のついている不動産となります。
抵当権の記載があった場合にチェックするのは
- 抵当権者
- 受付年月日・受付番号
です。
抵当権者が問い合わせ先となります。
問い合わせの際には、
- 所有者、債務者の名前
- 受付年月日・受付番号
を伝えるとスムーズでしょう。
なお、抵当権やその他の権利が設定されていない場合は、権利部(乙区)の記載はそもそもありません。
その場合は、相続に関して抵当権の手続きは不要ということになります。
抵当権を抹消しないとどうなるの?
抵当権が記載があった場合に
「よく分からないから抵当権の手続きは放っておこう」
と放置した場合には、以下の3つのデメリットがあります。
抵当権の手続きをしないデメリット
- 不動産の売却ができない
- 不動産の担保価値が大きく下がる
- 抵当権者と連絡が取れなくなった場合、手続き費用がとんでもなく高額になる
不動産の売却ができない
不動産の売却については、抵当権の記載の抹消を行わないと通常できません。
書面上は担保に入っている物件となっているからです。
売主の借金の返済が滞った場合、不動産は競売にかけられてしまいます。
そんな不動産を買ってくれる人は普通いません。
ですので、抵当権の記載を抹消できるのであればなるべく早めに行うのが鉄則です。
相続不動産を売却して、現金にかえて相続人同士で分けるといった場合も、抵当権抹消の手続きが必要になります。
不動産の担保価値が大きく下がる
抵当権の記載がある場合は、その分だけ物件の担保価値が下がります。
書類上は借金の担保に取られていることになっているからです。
不動産を担保にして融資を受ける場合には、物件の担保価値が問題になります。
抵当権の記載があるかないかで、融資の可否まで変わってきます。
資産としての不動産の価値を保つためにはなるべく早く抵当権を抹消する必要があります。
抵当権者と連絡が取れなくなった場合、手続き費用が高額になる
抵当権の手続きを放置していると、抵当権者と連絡が取れなくなってしまうケースがあります。
連絡が取れなくなってしまうケースとしては、
- 会社が解散した
- 相続が発生して誰が抵当権者か分からない
といったものがあります。
こうした場合には、非常に複雑な手続きが必要になり、専門家以外で抵当権の手続きをするのはまず無理です。
- 休眠担保権の抹消登記
- 抹消登記請求訴訟による裁判をする
といった手続きが必要になります。
私の事務所でも上記の手続きをした事例がいくつかあったのですが、
本来、抵当権の抹消手続き費用1~2万円で済んだものが、抵当権の手続きを放置していたために30~50万円かかったケースがあります。
まずは相続登記をする
相続不動産の抵当権の手続きをするためには、相続登記を先にします。
抵当権についての返済がすでに完了していれば先に手続きもできなくはないのですが、手続きが面倒になります。
先に相続による名義変更をしましょう。
名義人が変わることによって、その後の手続きも相続した人が単独で行えるようになります。
借金をすでに完済していた場合の対応
抵当権の手続きですが借金を完済していた場合とそうでない場合でやることが変わります。
借金をすでに完済している場合には
抵当権抹消
の手続きをすることになります。
通常であれば、借金の完済時に抵当権抹消手続きに関する書類が交付されます。
抵当権抹消手続きの書類とは以下のものです。
抵当権抹消必要書類
- 解除証書(弁済証書、解約証書などの場合もあり)
- 登記識別情報又は登記済証
- 抵当権者からの委任状
解除証書は抵当権者が抵当権を解除する旨を証明して発行する書類です。
抵当権設定契約書に解除した旨を記載して解除証書とすることもあります。
亡くなった方が抵当権の抹消手続きをせず、書類だけ保管している場合があるので探してみましょう。
抹消手続きの書類については有効期限はありませんので、見つかったときはそのまま書類を使って手続きをすることができます。
抹消手続きの書類が見つからないとき
借金は完済しているが、抹消手続きの書類が見つからないケースがあります。
書類が見つからない場合は、抵当権者へ連絡して書類の再発行をしてもらいましょう。
抵当権者が銀行や保証会社、信金、信用組合といった場合は、連絡することで書類の再発行をしてもらえます。
このとき、再発行の手数料がかかります。
抵当権抹消手続きのやり方
抵当権の抹消については
- 自分で法務局に申請する
- 司法書士に申請を依頼する
といったやり方が一般的です。
抵当権の抹消を行うためには、不動産を管轄する法務局に対して登記申請を行います。
抵当権の抹消書類の書き方は法務局のHPにでています。
そちらを参考に自分で申請するか、手続きに不安がある場合には司法書士へ依頼しましょう。
抵当権者と連絡が取れないとき
抵当権者と連絡が取れないケースは、司法書士に任せましょう。
連絡が全く取れない場合には、特殊な手続きが必要になります。
供託や裁判といった手続きが通常必要になりますので自分でなんとかしようとせず、専門家へ相談してください。
借金が残っていた場合の対応
亡くなった方の借金がまだ残っている場合には、
- 抵当権の債務者の変更
の手続きを検討することになります。
亡くなった方の借金を相続する場合には、法定相続分にしたがって相続人が借金を背負うことになります。
相続人同士で不動産を相続した人が借金も支払うと協議したところで、その協議自体は法的効果がありません。
お金を貸している側からすると、返済能力のない人に勝手に借金を相続されては困るからです。
そうすると、不動産をもらった人が借金の一部だけ背負うという通常ではおかしな状況になります。
この場合は、抵当権者である金融機関などに連絡をして債務者変更の手続きを請求します。
債務者変更の手続きとは、文字通り借金を背負う人を変更する手続です。
債務者の変更があった場合には、抵当権変更の登記申請を管轄の法務局へ行います。
抵当権抹消、債務者の変更にかかる費用
抵当権の抹消や債務者の変更の費用としては、法務局へ支払う登録免許税があります。
登録免許税は、不動産1個につき1,000円となります。
例えば、土地1筆、建物1棟についた抵当権抹消や債務者の変更をするには、
不動産2個 × 1,000円 = 2,000円
の登録免許税となります。
不動産の申請に関する登録免許税としては、それほど高額ではありません。
抵当権を放置しておくデメリットを避けるためにも早めに手続きをしてしまいましょう。
まとめ
相続不動産に抵当権がついていた場合には、相続手続きと一緒に手続きしましょう。
抵当権を放置しておくと後々手続きで多額の費用がかかってしまうためです。
相続では相続手続きだけに注意が行きがちですが、こうした不動産関連の手続きも一緒に済ませてしまいしょう。