2011年3月11日の東日本大震災の原発事故で福島県の一部では立ち入りが制限されている区域があります。
この区域のことを避難指示区域といいます。
こうした区域の土地や建物についても、相続による名義変更の手続は行うことができます。
相続手続の際に避難指示区域の不動産があった場合、どのように手続きを進めていけばいいのか弊所の経験を交えて解説したいと思います。
まずは不動産の避難指示区域内の区域区分を調べる
相続不動産の中に避難指示区域内のものがあった場合、区域区分を調べ現状どのような扱いを確認します。
避難指示区域には以下の3つの区域区分があります。
- 帰宅困難区域
- 居住制限区域
- 避難指示解除準備区域
◇帰宅困難区域
放射線量が非常に高いレベルにあり、バリケードなど物理的な防護措置を実施して、避難を求めている区域
◇居住制限区域
将来的に住民が帰還し、コミュニティを再建することを目指して、除染を計画的に実施するとともに、早期の復旧が不可欠な基盤施設の復旧を目指す区域
◇避難指示解除準備区域
復旧・復興のための支援策を迅速に実施し、住民が帰還できるための環境整備を目指す区域
以下が経済産業省が平成29年3月10日公表した避難指示区域の概念図です。
避難指示区域については順次解除がされています。
今現在避難指示区域内の不動産についても将来的には解除され通常の地域に戻る可能性があります。
相続の際には、土地が近い将来利用できるようになるのかどうかを調べておく必要があります。
また、避難指示区域であるかどうかで不動産の資産としての取り扱いが大きく異なりますので注意が必要です。
相続税の評価はどうなるか?
避難指示区域内の相続税の評価に関しては、毎年評価方法が通達で発表されています。
平成30年度の避難指示区域内の土地等の評価は「0円」ということになっています。
通常の土地や建物の時価については、国税局が毎年定める路線価及び評価倍率という基準をもとに計算します。
しかし、避難指示区域内の土地については、路線価等を定めることが困難であるため便宜上0円として扱われることいなっています。
相続税の不動産の評価は亡くなった年の路線価を適用することになります。
つまり、現在評価0円の土地でも将来的に避難指定区域が解除されれば路線価が定められ、将来的に相続財産の額が増えることもあります。
避難指定区域の解除予定の地域においては固定資産税評価が0円でなくなりますという連絡があるようです。
上記の点で避難指示区域かどうかという点は相続において非常に重要なポイントになります。
名義変更にかかる登録免許税は変更の時の評価額なので注意!
相続税のほかに不動産を相続して名義の変更をすると登録免許税という税金を法務局へ納めることになります。
避難指示区域の不動産の場合、現在評価額は0円なのでその間に名義変更をした場合には最低額の1,000円ですみます。
注意が必要なのが名義変更をしないでいた場合です。
登録免許税の場合は「名義変更申請時」の不動産の評価をもとに計算されます。
避難指示区域の解除が行われた場合には、不動産の評価額は0円ではなくなります。
相続により名義変更の登録免許税は、不動産の固定資産評価額×0.4%となりますので、1000万円であれば4万円、2000万円であれば8万円かかることになります。
将来的に使う土地で相続する人が決まっているのであれば早めに名義変更を済ませてしまいましょう。
相続には賠償請求をする権利も含まれる
相続では具体的な財産だけでなく、故人がもっていたお金を請求する権利も含まれます。
原発事故による賠償請求権は不動産を引き継いだ相続人から請求することができます。
原発事故の賠償対象になるもの
- 家屋
- 土地
- 家財
- 車
- 避難生活等による精神的損害
- 避難生活による避難・帰宅等にかかる費用相当額
上記のものが損害賠償の対象となります。
相続人から家屋と土地について賠償請求をするために相続人への名義変更が必要になります。
相続人全員の名義にして相続人全員から賠償請求といったことも可能です。
ただし、不動産を共有名義にしてしまうと
管理が誰をするのか?
売却時に全員の同意が得られない
などの問題が発生しますので、代表者の単独名義が望ましいところです。
賠償請求の請求の仕方
原発事故の賠償請求については、原子力損害の賠償に関する法律に基づき、東京電力へ請求することができます。
以下のページに詳しい内容が記載されています。
参考ページ: 原子力損害賠償について(東京電力ホールディングス)
時効で原発事故の損害賠償請求ができないのではないか?
東日本大震災からすでに7年が経過しているので、賠償請求権は時効で消滅してしまっているのではないかという心配もあります。
賠償請求の時効は通常「損害および加害者を知った時から3年間」とされています。
ただ、原発事故の場合は法律で特別に事項の期間が10年まで延長されています。
ですので東京電力側が2賠償請求に対して3年の時効による消滅が主張できなくなっています。
また原発事故を起因とする健康被害については、健康被害等が生じたときから20年の除斥期間が設けられています。
まとめ
原発事故によって福島県の一部の土地は相続において特殊な取り扱いがされています。
相続手続を進める上でこうした土地がでてきたときには、この記事にある点を注意してください。