2018年7月13日に「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」が公布されました。
このなかで、遺言制度に関する見直しが行われ、自筆証書遺言の方式緩和とともに遺言執行者の権限が明確化されました。
遺言執行者とは
遺言執行者とは、遺言書の内容を実現するために必要な手続きを相続人の代わりとなってする人です。
相続人である必要はなく、弁護士や司法書士などの専門家に依頼するケースも多くあります。
また、法人を遺言執行者とすることも可能で、信託銀行を遺言執行者とする場合もあります。
ただし、未成年者や破産者は遺言執行者となることができません。
ポイント
遺言執行者になれる人 ・・・ 相続人、弁護士や司法書士などの専門家、信託銀行等の法人
遺言執行者になれない人 ・・・ 未成年、破産者
遺言執行者が指定されていない場合は、相続人が遺言書の内容のとおりに相続手続きを進めていくことになります。
しかし、以下に該当するときには遺言執行者が必要です。
遺言執行者が必要なケース
- 遺言で子の認知がされた場合
- 遺言で推定相続人の廃除がされた場合
- 遺言で推定相続人の廃除の取消しがされた場合
- 不動産の遺贈を受けたが、そもそも相続人がいない場合、又は、相続人が所有権移転登記に協力しない場合
上記以外の場合でも、相続の手続きはなにかと手間がかかることが多く、相続人たちが放置してしまったり手続きが遅れたりすることもあります。
遺言執行者を選任しておくと相続が円滑に行われます。
改正ポイント①遺言執行者から遺言書の内容が通知される
改正前の民法第1007条では「遺言執行者が就職を承諾したときは、直ちにその任務を行わなければならない。」とされていました。
改正後は、上記に加えて「2 遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない。」とされます。
改正前は、遺言の内容を相続人に知らせることなく遺言執行者が相続手続きを進めてしまうこともできました。
しかし、それではトラブルとなるため相続人へ遺言の内容と知らせたうえで遺言執行者として手続きを進めることが明文化されました。
改正ポイント②遺言執行者が「遺言の内容を実現するため」の権利義務を有するようになった。
遺言執行者は、法改正前ではその地位を民法第1015条において「相続人の代理人とみなす」と規定されていました。
また、改正前の民法第1012条では「遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。」と規定されています。
遺言の内容が相続人の意向と対立するようなものである場合に、遺言執行者は相続人の代理人という立場と遺言の執行という権限の間で手続きを円滑に進めることが難しいケースがありました。
そこで改正後には、第1015条の「相続人の代理人」という文言は廃止され、第1012条は「遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。」となります。
具体的に変わる点は、不動産の相続登記申請です。
改正前は遺言執行者は「不動産を相続人に相続させる旨」の遺言について登記の手続きを行うことはできませんでした。
それが相続法の改正後は、登記の手続きを行う権限が与えられることになります。
遺言執行者は、相続人の利益のために手続きを行なうのではなく、遺言の内容を実現するための権限を持っていることが明確になりました。
改正法の適用時期
2019年7月1日以降に就任した遺言執行者から適用されます。
遺言執行者が就任をするのは、遺言書の作成者が亡くなってからです。
遺言書の作成をした時点ではないので注意が必要です。
遺言執行者として公正証書遺言等に名前を書いてもらった方は、仕事の進め方や範囲が以前とは異なるので注意しましょう。
まとめ
2019年7月1日から遺言執行者の仕事の内容が以下のようにかわることになります。
ポイント
- 相続開始後、遺言書の内容を相続人へ通知
- 遺言の内容を実現するための権利義務を有する
法改正で遺言執行者の権限が明確になることで、相続手続きがこれまでよりスムースに行われるようになるでしょう。
もしも遺言書の内容を相続人たちがきちんと実現してくれるか不安なときには、遺言執行者を指定することも検討してみましょう。